終の住処 #6 〜 経年変化をデザインする

経年変化をデザインする by kimizuka architects

終の住処 の 経年変化 についてどのように考えるべきかも、クライアントと議論したことの一つだ。 侘び寂び や 物の哀れ などという言葉を私のような40半ばの若造が親に近い年齢のクライアントに言うのはおこがましかったが、単なる新建材だけに囲まれた 家 にならない方法を考えられたらと思っていた。

彼からしてみれば、自分は 経年変化を感じる ことは出来ないと知った上で、家族に何をメッセージとして遺したいかということでもあったろうからいろいろと思うところがあったに違いない。

最終的に至った姿には、裏でありながら正面である谷側の外装に、木と 黒漆喰 をメインとした、 経年変化 を想定した 時間軸 が設定されている。外壁や軒天の木は紫外線の影響をうけて、長期的にはグレーになっていく。また、 黒漆喰 も、時間と共に墨が抜けていき、ムラのあるグレーになっていく。谷側では仕様範囲こそ少ないものの、新建材であるガルバリウムの色を黒とした理由は、これらの不均質に変化するグレー要素を束ね、引き締め、全体として一体性を持たせるためである。時間が経つにつれて、この 家 は、古い神社仏閣とはいわないまでも、 モノトーンの風格 を示し始めるだろう。

そんな将来的な姿を描きつつ、初期設定の状態をどうしておくべきか、この部分のコンセンサスもクライアントとしっかりと詰めておく必要があった。

経年変化をデザインする by kimizuka architects

軒天は、設計時はヒノキだったが、現場で無節の 杉の赤身 の本実が手に入るということで、サンプルを見てクライアントと満場一致、変更することにした。ヒノキなら塗装で少し色をつけたくなるところだったが、 杉の赤身 ならその必要はない。クリアの保護塗料のみ施した。ここから時と共にグレーになっていくのは良い。

外壁の木は、軒天との劣化速度を調整するために、木ぐいでも使用される 杉の高圧縮材 を用いた。セオリーとしては、色はつけたくなかったが、予想以上に東伊豆の光を浴びた時のデフォルトが黄色がかっていたので浸透性塗料で色を深くした。浸透性とはいえ、塗装のメンテをしなければ、いずれ色が落ち、グレーがかってくるだろう。また、長期間腐らない木を使用してはいるが、張り替え不要であるとは限らないので、一部を除き、出来るだけ、1階やバルコニー際など、足場を組まずに作業ができる範囲にした。

黒漆喰 は、テクニックとして、墨を少なめにして初めからムラを出すこともできたが、今回は他との経年変化のバランスから本来の黒で仕上げた。ここだけ時間を早送りする意味もないだろう。また、漆喰の汚れやすさに配慮し、直接的な雨がかりにならないよう、1階のセットバックした部分に用いた。これも、足場を組まなくても作業ができる範囲になるので、将来的な補修がしやすいという利点がある。

漆喰 も最近はいろいろあるが、本来の 漆喰 を使う場合は、下地と 漆喰の剛性 の違いに配慮した中塗りの調合が重要である。ダメな施工者は、この中塗りがいい加減なだけでなく、そもそも、そういう自覚すらない。今回は施工管理の担当者がとても真面目な方だったので、中塗りもしっかり行ってくれた。遠方監理で私は中塗りに立ち会えなかったが、写真と併せて報告をくれた。これも施工管理者としては、当たり前のことではあるが、写真を撮らないどころか、やってもいないのにやったというような業者も多いのが実情だ。左官の質は職人に依存する部分が多く、その職人に丸投げで管理しない施工管理者も多いため、ハズレの場合も少なくない。しかし、予算に見合わぬ人間国宝級の左官職人をつれてこいと言っているのではない。ただ、真面目に、手を抜かず、当たり前のことを当たり前にするのが、 プロ倫理 というものである。本来は、そこまでやって、はじめて、ひび割れなどについて、それは、漆喰の物性の問題であると言っても許されるのだと思うが、そういう、やるべきことをやらずに言い訳ばかるする施工者も多い。 漆喰 もいずれ、樹脂系左官材により滅ぼされるのであろうか。

このように、クライアントが 次世代に遺すもの の中に 漆喰 を受け容れたことの意味を、本人の意識、無意識に関わらず、単なる 風合い上の好み を超えた、どんな仕事をするにしても必要な、 プロ倫理 に関するメッセージだと、想像力を馳せることだってできるのだ。それもまた、 終の住処 の持つ力である。

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