住み継ぐ家 #3 ~ 与条件とポテンシャル

与条件とポテンシャル

新築 の 設計 の際は、敷地を調査することから始めるが、改修 の 設計 の際は、さらに、既存建物の調査 も行わなければならない。こういった、与条件 というのは、設計者がコントロールできる範囲ではないが、与条件 を運命と読み替えるなら、それとどう向き合って未来を築いていくのかを、建主と共に考えていくことが、我々の仕事である。新築であれ改修であれ、現況というのは概して問題をはらんでいる。それは、楽しいものではないことも多い。しかし、目の前の現実というのは、受け身で接しているうちは基本的に先が見えないものである。逆に言えば、そこには、無限のポテンシャル が秘められているとも言えるのだ。

被災した建物 に正面から対置して、壊してしまえと思うのか、それを宝の山と感じるのか、全ては考え方ひとつである。もっとも、設計者 だけではどうにもならない。主役は他でもない 建主 である。だから、私は、どんな難しいプロジェクトであっても、建主に可能性を見出せる仕事は出来るだけ引き受けたいと考えている。このプロジェクトも例外ではなかった。

Sさんの実家は、大きくは3つの棟によって構成されていた。一つは今回対象となっている 古民家 、そして同じく 古民家 の作りでできている作業場、そして、もう一つは、比較的最近に建てられ、現在はご両親が住んでいる家屋である。3つの建物は基本的に 白い壁 の建物で、横に一列に並んでいた。その背後の 裏庭 の畑は、もともとは 防風林 で囲まれており、少なからず鉛直性が感じられる空間であったのかもしれない。しかし、初めて敷地に訪れたとき、既にその防腐林は伐採されており、広大な敷地 に建ち並ぶこれらの3つの 白い建物 が、白く 広い空 の下で、非常に寒々しく感じられた。一方、建物とは対照的に、表土を入れ替え、少しずつ再生しつつある畑からひしひしと伝わるエネルギーが、今、これから、まさに始まろうとしている、住み継ぐ家のプロジェクトを前にした私の身を、引き締めさせたのである。

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