3.11は、このプロジェクトの竣工引渡しの翌日に起こりました。
このプロジェクトは当初、次世代型SOHOと詠い、郊外住宅の閉じた殻を少しだけ取り払い、親と子や家族と地域の繋がりをテーマとして計画された、オフィス・サロン付兼用住宅でしたが、3.11の出来事以降、直接の被害の有無に関わらず、このテーマは軽々しくは扱えない、切実なものとして立ち現われてきたように思います。それ故に、設計者としては、このプロジェクトが当初の構想に基づき、活き活きと住まい手によって使いこなされることを期待してきました。
サロンとしては昨年5月に正式にオープンし、間もなく1年を迎えますが、住まい手の努力と熱意によって、少しずつ、個人住宅でありながら、地域に開かれたサロンとしての存在感を増してきています。先日は、年に幾度か開催されるマーケットにお邪魔してきました。公共施設でもない、かといって、所謂商業店舗でもない、地域に開かれた“個人住宅”が、年に幾度かマーケットとしての賑わいを見せます。来訪者の多くは、住まい手の輸入販売する“はちみつ入りのお茶”をきっかけに広がった近隣住民を中心としたコミュニティの方々です。
“個”のモチベーションから始まった小さなことが、少しずつ共感を呼び、地域や人の繋がりを作る。そして、そのような住まい手の意志をかたちとする家。それは、顔の見えない相手に対し、形式的に組み立てられる論理を超えられない、政治や投資目的の“箱モノ”によってはたどり着けない極みです。
建築が人の意志を操れるのではなく、人の意志こそが建築や生活環境を変えていくことが出来るという立ち位置に身を置けば、人の意志と、それをくみ取り、具体的なかたちとする建築家との二人三脚、そして、その相乗効果の可能性は無限に感じられます。
短い人生の中で関わることのできる人の数は限られていますが、ご相談頂く一人一人との出会いを大切に、個別の意志とテーマを扱うプロジェクトに、これからも携わっていきたいと改めて感じました。
当日の模様は“住まいの景”で近日中に紹介する予定です。
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