その 古民家 は、地震 と 津波 の 被害 を受け、被災区分的には全壊扱いを受けていた。 震災 当初、躯体は傾き、外壁は崩れ落ち、床下は汚泥に埋まっていた。ボランティアたちの協力によって、床下の汚泥は取り除かれたものの、そのままでは住める状態どころか、このまま風雨にさらされた状況を放置しておけば、時間の問題で倒壊する日も近い状態のように映った。
ご近所の中には、 古い民家 を 解体 撤去 し、新築のプレファブ住宅へと建て替えた人もいれば、この地に見切りをつけ、高台に移転した人もいるようだった。いずれも、当事者の立場に立ってみれば、けして、否定することは出来ない判断ではある。Sさんの実家にも、幾度か 建て替えの営業 が訪れたというが、Sさん夫妻は敢えて、新しい家に建て替える のではなく、この 民家 を 修復 し、 住み継いで行く というこだわりを貫こうとしていた。私は、その 強い意志 に宿るものを、なんとかカタチにする力になりたいと思った。
また、Sさん夫妻と交わしたいくつかのやり取りの中で、「 即席で建てた、あるいは買った家 に 30年以上のローン を組んで返し続けるより、30年かけて 家をつくり続ける ( 考え続ける )方が本当はずっと 豊か なのではないだろうか 」という問題意識で意気投合したことも、この プロジェクト に取り組む大きな モチベーション となった。そのような意識は、追い込まれた状況下で発揮される、 強い生命力 のようなものがなければ、なかなか芽生えることはない。そしてそれは、まさに、このような プロジェクト の為に、必要となる意識であり、 価値観 である。
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