クライアントは東京に立派な 家 を既に構えていたが、あえて 東伊豆 に 終の住処 を建てるにあたり、東京の自宅の窓から外を見ながらいつも、家の外がこれと同じなら、わざわざ 東伊豆 に建てる必要はないなと言っていた。彼は塀や植栽により、隔離された東京の住まいを通して、 プライバシー について話していたのだが、 終の住処 については、 東伊豆 の 渓谷沿い に建てることを最大限に生かし、 自然 を取り込んでほしいということだった。
そして実際そのような 家 になったが、 プライバシー が最も意識される、 バスルーム についても、その考えは適用された。
まず、 終の住処 の バスルーム は、通常の戸建て住宅と変わらない、1坪の 浴室 と1坪の洗面脱衣室をまず設定している。物理的なスペースを、あえて、平均的な都市部の住宅と同じサイズにすることで、如何に、 敷地の特性 を活かしているかを相対的に感じてもらうためだ。
浴室 と洗面の境界をガラスパーティションにして、仕上げを連続させることで2坪の浴室、あるいは、洗面であるように感じさせた上で、洗面 → 浴室 (洗い場→浴槽)という進行方向の突き当たりにフルワイドの窓を設け、インナーテラス、濡れ縁を介して正面の庭、そして、渓谷へと続く連続性を与えた。これにより、単に 自然を取り込む だけでなく、 体感的な奥行き を通常の2倍、3倍得られる、 半露天的 なものとなっている。
もっとも、浴室 は1階にあるため、谷の深さはダイレクトには感じられない。しかし、庭木の隙間からそれを連想することができる。少しだけ見えるからこそ感じられるものもある。内側から外が見えると外からも見られると思いがちなので、一応外側に簾をもうけておこうとクライアントと話し合って決めたのだが、渓谷の反対側からは言うまでもなく、一段下がった位置にある前面道路からも、まず、見られることはないだろう。特に、外がよく見え、開放したくなる昼間に至っては、外から内は暗くてよく見えない。 伝統家屋の格子窓 の理屈である。
このような バスルーム は、ユニットバスではできず、 在来浴室 のなせる技である。今は FRP防水 の技術が発達しているため、 在来浴室 でも、ユニットバス以上の防水性、防湿性が確保できるようになった。唯一の懸念材料があるとすれば、 在来浴槽 は排水が防水層に垂れ流しになることが標準のため、エプロンで覆われて見えない浴槽の下が、不潔になりがちという点である。そこで今回は、浴槽と造作によるエプロンのジョイント部の止水性、減圧性を確保した上で、排水口に排水管を直接接続し、さらに、その接続部を床下から点検できるようにした。つまり、ユニットバスの維持管理性を 在来浴室 に取り込んだものとなっている。また、万が一、水が浴槽の裏に回った場合も想定し、床下に FRP防水 によるパンもつくっておいた。贅沢を言えばこのパンにも排水口が欲しいところだが、トラップがすぐ切れて異臭が漂うリスクの方が先にあったため、そこまではやらなかった。せっかく点検できるようにしたのだから、定期的に点検してもらうのと、浴槽とエプロンの取り合いに打った一次シールのメンテナンスを怠らないことである。
バスルーム や キッチン は、昔の民家では 汚れたスペース と扱われてきたが、そのようなスペースこそ、清潔で安らぐ場所でありたい。用を足せばよいという以上の何かが必要と常々考えている。
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