終の住処 #8 ~ デフォルトとしての 断熱性能

この 家 の 夏場の温熱環境 は、上下階共に非常に良い。竣工写真の撮影のため、真夏に訪れたが、クライアントはエアコンはほとんど点けず、窓を開けて過ごしているようだった。 断熱材 はもとより、庇 や LowE遮熱ガラス による日射の制御と、窓の開け方による 自然通風 が効果的に働いていたからだ。特に2階は風が抜けるため、皮膚感覚的にも 涼しい はずである。冬場は訪れてはいないが、2階はエアコンに加え薪ストーブがあるため、フル稼働の必要はほとんどないだろう。

断熱性能 と 住まい手の世界観 by kimizuka architects

一方、1階居室は、客間とは言え、冷気がたまりやすいことに加え、暖房設備はエアコンだけなので、2階よりは冷えることが予想される。しかし、山側に階段やエレベーター、倉庫といった非居室を配置し、谷側の居室との間に廊下を通していることと、両脇が玄関、バスルームといった屋内になっていることから、直接外気に面する壁は南西の谷側のみとなっている。また、 基礎断熱 により、外周1mの範囲を除き19度前後の地熱の恩恵もうけられる。したがって、1階居室の谷側の外壁は、ほとんどが掃き出し窓だが、これらが 熱貫流率の低い 仕様であることに、以上のような外皮条件が総合されれば、その 暖房負荷 はかなり制限されるはずである。

断熱性能 と 住まい手の世界観 by kimizuka architects

この、 温熱環境制御装置 でもある、玄関から連続し、長手方向に貫かれるL型の廊下は、小さな住宅ではなかなか出来ない贅沢な空間だが、廊下の為の廊下にしてしまうのはもったいないので、クライアントが旅先で購入した様々なコレクションを展示する思い出ギャラリーとした。そこには、居室の収納と表裏一体となっているスペースをやりくりしながら、テーマ別に置ける様々なサイズの ニッチ棚 を設けたほか、 アンティーク家具 を埋め込むなどがなされている。

断熱性能 と 住まい手の世界観 by kimizuka architects

断熱 をはじめとする、 数値的な性能 というのは、住宅において軽視できないものではある。しかし、勘違いしてはならないのは、数値的な性能は、 住まいの豊かさ の本質や主役にはなり得ないということである。 数値的な性能 でしか 豊かさ を図れない価値文化があるとしたら、それは、非常に寂しい、想像力のかけらもない文化かもしれない。私は、設計者としては、そういった性能を無視するのではなく、当たり前のようにさらりとこなした上で、さらに、 住まいの豊かさ を裏付ける、より 本質的な価値観 や 世界観 について、クライアントと共に考えていくことが、 我々の職能 に求められることではないかと思っている。

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