住み継ぐ家 #7 ~ 黒漆喰 の 竈 の継承

黒漆喰の竈

土でかたちを整え、漆喰 で仕上げた 竃 は 古民家 ではよく見られる。この 古民家 では、最後の仕上げは 黒漆喰 でつくられていた。白い 漆喰 は、使われていない状態ではとても綺麗なのだが、使う場合は 漆喰 の繋ぎ材の物性からして、汚れを吸収しやすい。だから、 竃 のようなところに 黒漆喰 を採用するのは、合理的選択である。

黒漆喰 というのは、真っ黒に仕上げれば仕上げるほど質が高いとされる。しかし、漆喰 と 墨 は、未来永劫ブレンドされ続けてはくれない。時間と共に、漆喰 の白い成分が勝ってきて、徐々に 斑 のあるグレーに変わり、やがては白くなる。黒く戻したい場合は、最近は下地処理を施してから塗り直すことも出来るようだ。この 竃 も、作られた当初は真っ黒だったのかもしれないが、よい感じの 斑 のあるグレーになっていた。かなり古いものだが、内部ということもあってか、割と濃い状態でのこっている方だと思う。

この 竃 は、Sさんとのやりとりの中で、なんとか残しておきたいもののひとつとして位置付けてある。 津波 の影響前と後で、どの程度の傷みの差が生じているかは定かではないが、 竃 として使うには、ヒビもあるので補修が必要だろう。果たしてうまくできるだろうか?こういったことを専門に行っているような左官職人に相談した方がよさそうである。機能的には、 竃 以外の用途で使う方法もありそうではあるが、第2幕以降の課題である。

 黒漆喰 の 竈 の継承

今回、第一幕で外装の改修も行うにあたり、 竃 エリアの通用口から裏の畑側に続く北側の外壁の仕上げを 黒漆喰 にしているのは、この竃の仕上げを引用したものである。また、壁が暗い方が、 古民家 の象徴的な屋根瓦も引き立つ。屋根瓦自体は黒色でも、日光に反射して、日中は白く光って見えるからだ。黒漆喰 は、下地として土壁からつくる予算はなかったので、あくまで仕上げだけだが、将来、 竃 が撤去されるようなことがあっても、謂れのある施しを別の場所にしておけば、 記憶 は継承されていくだろう。物自体はいずれは消えて無くなる運命だが、 記憶 は、見える姿形を変えながら、断片を介して継承することができる。そのための断片を、改修の過程の様々なレベルで、刷り込んでいこうとしている。

外壁の 黒漆喰 は、意図的に墨の量を減らし、はじめから 斑 がある状態にした。ここだけ真っ黒にしてしまうと、中の 竃 の表情との温度差がでてしまうので、今回の改修では、わざと、時間を早めた状態をつくりだした。それにより、新たに施したにもかかわらず。大分時間がたっているようなものになった。外壁なので、今後さらに 斑 が生じ、ひよっとしたら、ほとんど白になってしまうところが現れる日も、遠くないかもしれない。

漆喰 は左官職人による調合や中塗りのうまさで、ひび割れなどの出方が変わる。漆喰なので、ひび割れは当たり前ではあるけれど、それでも職人差のでる仕上げである。しかし、最近は左官職人も、大工や板金職人、家具や建具職人同様、技術力が落ちているから、予算はもとより、元請の職人ネットワークの質や、施工管理力が高くないとなかなか難しい。こうして、世の中は、比較的失敗の少ない、人口的に見てくれが維持できる樹脂系左官材が多用されるようになっているわけだが、ようは、究極は、自然素材が朽ちる様を価値として許容する感性があるかないかの問題とも言える。

職人差という意味では、今回もけして多くの期待を抱けるような状況ではなかった。しかし、もともと一期工事は、雨風をしのぐための仮の外装まで行けば御の字という中、なんとか、ここまでやり終えることができたことを忘れてはいけない。理想的には、二期工事以降のタイミングの良い時期に、 竃 と共に、しっかりした業者に 黒漆喰 を塗り直してもらうのが良いのかもしれない。しかし、その一方で、それは必ずしもこのプロジェクトの当面の本質ではないようにも思う。

斑のある 黒漆喰 の壁を見て、「なぜ、まっ白な漆喰でないのだろうか」ということを自問し、黒漆喰の竃 との関係性を思い起こす。今回のプロジェクトで最も大切なことは、表層的なエレガントさよりも、そういった、背後にある意味や 謂れ を感じ続け、継承していくことの中にあるのではないだろうか。そうでなければ、既存の古民家を撤去し、見てくれも性能も良い現代住宅に建て換えてしまう方が、よほど合理的と言えるだろう。それはそれで、私の得意とするところでもあるが、このプロジェクトのテーマはきっとそこにはない。そして、そこにはないところに、このプロジェクトに取り組む真の価値がある。

→ 住み継ぐ家#8