住み継ぐ家 #6 ~ 開と閉 / 動と静 の ヒエラルキー

住み継ぐ家-増築部の解体

住み継ぐ家 の 改修計画 にあたり、古民家 ならではの、主要な太い柱と梁で構成される基本的な骨格は維持しつつ、30年以上前に行ったと言われる 改修 の際に、異物のように、下屋のさらに外側に増築され、漏水 や 腐食 の根源となっていた、浴室やトイレのブロックを徹去し、シンプル な 矩形プラン にした。下屋下も、当初は縁側であったらしきところの母屋側の柱を外し、一体化されていたようなところがあり、本当は初期状態に戻す方が構造的には自然だった。しかし、プランの関係上、これ以上、柱を部屋の中に増やすことが厳しかったため、スパンの飛んだ梁を 補強 し現状維持に留めた。

こうしてできた 矩形プラン に対し、南北方向 に、 開と閉 ( プライベート性 )の軸を、東西方向 に 動と静 ( アクティブ性 )の軸を設定し、ヒエラルキー に応じたいくつかの ゾーン を設定した。

開と閉 / 動と静 の ヒエラルキー に関連して、少し話がそれるが、バリ島 の 伝統民家 では、山と海、東と西に対する聖と俗の軸から成るグリッドから、ナインスクエア という 9つのヒエラルキー が設定され、其々のゾーンに意味付けがされているという。厳しい 自然環境 の中で 世界観 を構築する時の 宗教の知恵 である。もっとも、住み継ぐ家 の 開と閉 、 動と静 によるヒエラルキーの設定は、そのシステムを肖った部分もあるが、言うまでもなく、宗教 ほど厳密なものではない。不自由にならない程度の 柔軟性 はもちながら、しかし、全壊判定 された、いわば、物理的には無に近い状態の中で、何かを生み出していこうとするときの、ひとつの 拠り所 になればと考えた。

小さな食堂のある家 という ブループリント に沿って、南側には、客席や オープンキッチン など、人に 開放できるエリア を設定し、北側には 寝室 や バスルーム、ワークスペース、住宅専用の台所などを配するイメージとした。また、中央のエリアについては、どちらの性格も兼ね備えたゾーンがある。寝室など明確に閉じたい部屋をのぞいては、兼用住宅 としての特徴を生かし、曖昧さを保ちながら空間としては連続している。中央のエリアはそういうエリアにあてた。

動と静 については、公私にわたり、もっとも アクティブ に使われるであろう、キッチン を動として東側に設けた。最東エリアは、 閉と開 の軸にも習い、開放的な食堂用は南側、閉じた住宅用は北側、両者に挟まれたエリアには、台所の、そして、古民家 の象徴でもある 竃 のエリアがある。

また、対照的な 静のエリア には寝室群、そのなかでも特に最西のエリアは、Sさんのお母さんのエリアを割り当てた。さらに、北西角部屋は、最もプライバシーがありながら、静かな場所 ということで、Sさんのお母さんの寝室となっている。実はこの裏庭の北西側には、この場所の地霊を祭った 祠 がある。その意味でも、この方位は 神聖 なものとして位置づけられる。

住み継ぐ家-南東部

一方、その対角上で、 開と動 という、もっともポジティブな、出窓に面した東南の角には、オープンキッチン と連続する奥さんの 専用ワークスペース を設ける計画なのだが、ここに至ったストーリーはこうだ。

もとの東南の角部屋は、Sさんの奧さんにとって、家族に溶け込む過程でとても重要な場所だったことは聞いていた。そこで、新しい家では、角部屋としてではないが、食堂兼用住宅 を飛行機にたとえるなら、その コクピット とも言える オープンキッチン として生まれ変わらせることにした。その コクピット で操縦する機長は、ほかでもない。食堂兼用住宅 の 発案者 であり、この場所を最も愛していたSさんの奥さんである。この キッチン に立ちながら、家族だけでない、食堂 に訪れる様々な人たちとの新しい関係が、この場所に対する想いの強度をさらに上げていくことだろう。

こうして、彼女の 専用デスク が、その一角である東南の角に置かれる計画となった。奥さんにしてみれば、結婚したからといって、知らない土地に移住し、生涯そこに住み続けるには、相応の覚悟がいたはずだ。にもかかわらず、それを、こんなにもポジティブに、楽しく考えようとしているのだから、これくらいの図らいは、あっても良いはずだと、他人事ながら思う。

→ 住み継ぐ家#7